トピックス

<自由民主> 新春特集号 平成19年

平成19年 安倍総裁と
「美しい国づくり」を語る

国民の情熱が原動力

  • 安倍晋三総裁
  • 兼元謙任:(株)オウケイウェイヴ代表
  • 近藤紀子:地域維新グループ代表
  • 【司会】石原伸晃幹事長代理

一人ひとりの力で日本はもっとよくなる

石原伸晃幹事長代理:皆さん、新年明けましておめでとうございます。今回の座談会は、安倍総裁の「美しい国づくり」をそれぞれのフィールドで実践している方々をお招きしました。まずは兼元さん。兼元さんはホームレスだったそうですが。

兼元謙任氏:もともと名古屋市出身なんですが、名古屋でボランティアグループを立ち上げておりまして、非常に大きくなったところで会社組織にしようとしたときに、ちょっと失敗をしまして。それで、公園で寝泊まりしながら転々としました。約二年間のホームレス生活からいくつかアイディアをいただいて、起業して、今年の六月に株式上場をさせていただきました。

石原:株式上場したんですか。それはすごい!

兼元:ありがとうございます。ともかく私がやりたかったのは、ボランティアをやっていたこともあり、人のためになるようなことをしたかったのですが、公園で寝てるようなやつにおカネを出してくれるところもない(笑)。ITの訓練をしてくれるところもないので、ともかく自分でいろんなことをやって、おカネも全然集まらないなかで、いろんな人を頼りにしながら会社を立ち上げ、再チャレンジすることができました。ホームレスから会社を立ち上げるのはまだまだ難しいなと思いつつも、ただ、私がやれたことなので、皆さんにもそういうチャンスがあるということを多くの人に伝えたいです。

石原:兼元さんの人生はまさに再チャレンジそのものですね。

安倍晋三総裁:そうですね。日本ではまだまだ再チャレンジがしにくいと言われています。その中で、ホームレスから会社を起こした。第二の兼元さんが出てくるような社会にしていきたいと思います。

石原:さて、一方の近藤さんは、学生時代に人手が足りなくて困っている農家に、ボランティアの方を派遣したのが、事業を始めたきっかけだそうですね。

近藤紀子氏:はい。もともとは山口大学でベンチャー・ビジネス論を学んでいました。そこで、地域にある問題を解決するためには、経済的に継続して、自立した事業としていくために、ビジネスの要素も取り入れる。言うなれば「ビジランティア」のような形でやっていくことが大事だということを学びました。私自身の問題意識は農業でした。農業というのは、自然とか、田舎のよさというのを守ってきました。その中で、農家が、高齢化とか過疎化で、忙しい時期に手伝いがいないことで大変な思いをしていました。じゃあ、まず私たちに何かできることはないかと、学生たちに農業に対する意識調査をしてみると、三人に二人が農業に興味があるというデータも出ました。それで集まった三十人で「学生耕作隊」をスタートさせました。

安倍:日本が人口減少社会になっていますが、まだ活用されていない資源、つまり「フロンティア」があります。まさにそれは女性の能力を積極的に活用し、起業に挑戦していくことだと思います。 農山漁村は日本の原風景です。農村社会が持つ美しいたたずまいの崩壊は、日本の文化、伝統、自然の崩壊につながっていきます。これを守っていくことが、美しい国につながっていくと思います。そのために、活力ある農業が必要です。やる気のある農家が人手を確保するというところに、近藤さんは見事に着目しました。それをコミュニティビジネスとして確立したことは、農業に対して新しい可能性を与えてくれたと思います。

石原:若い人たちにはフロンティアがありますね。未来が果てしなく続いている。その中で、お二人が新しいチャレンジをしている。今日はそんな元気の出る話をたくさんうかがいます。

日本人が持つ助け合いの精神を信頼
安倍晋三総裁

安倍:兼元さんが再チャレンジをする上で、いろいろな障害があったと思います。ここがこういう仕組みになっていると助かったという点はありますか?

兼元:今、ちょうど中国、韓国のIT技術者が私の会社の面接に来ています。彼らも「再チャレンジ組」で、商社などいろいろな会社に勤めていて、そこを辞めて仕事がなくなったというときに、中韓では二年間、無償でITの訓練をして、その後、日本、欧州、米国に行って三年間働いて、外貨と知識を持って中国、韓国に帰ってこさせることを国策でやっているんです。私もITに関わってきましたが、パソコンとかプログラムとかというのがなかなかできなかった。日本にもそういった訓練センターがあれば、もう少しスムーズに知識が得られたんじゃないかなと思いますね。

安倍:私も大阪で、やはり一時、ホームレスになって、生活を立て直したという方々、何人かからお話を伺ったんです。そういう方々は、ホームレスになったときに、生活のリズムや社会の規範から外れたところで生活をしていると、元に戻るのに時間がかかったという話がありました。そして、人生に目標を持ったり、何か自分はこの分野で頑張るんだというものを探し出すことができると、社会で活躍をしています。そういう意味で、職業訓練、ITだけではなくて、何か自分で「これは!」という職業を身につける訓練の場を、国としてもぜひ提供、強化していかなければいけませんね。

兼元:ぜひよろしくお願いします。

石原:総理の前向きな発言が引き出せましたから、これが国会の委員会での質問だったら丸一個ですね(笑)。それで、兼元さんは今「Q&Aサイト」を運営しているそうですが。

兼元:もともとパソコン通信に質問を投げ入れたところ、答えが「マナーがなってない」「質問をもうちょっと詳しくしろ」ということで非常に冷たかったんですね。それで、ちゃんと質問に答えてくれる、答えた人も質問した人もまた入れ替わって、質問者になったり回答者になるような、そのようなインターネットのコミュニティがあればと思ったのがきっかけです。特に日本というのは、助け合いの気持ちといった良い文化を持っていて、それを交換できればもっと世の中良くなるはずと考えました。現在、「Q&Aサイト」には六十万人登録者がいて、月間で五百万人が見てます。実はその中で生まれたのが『今週、妻が浮気します』という本で、一月からテレビドラマ化されるんですが、これはある男性が妻の携帯電話を見て、浮気するかもしれないと知り「何とかならないか」と質問しました。これに対して、六十人、百十件の回答があり、結果的にハッピーエンドになったという実話です。恋愛だけじゃなくて、IT、起業、農業のこと、さまざまな質問と回答が日々、一万から十万ぐらいやり取りされています。これは誰かが聞くと誰かが答えてくれるような、「助け合いのサポートセンター」という形のサイトです。だんだん大きくなってきていて、最近では数百社の大企業にもシステムを活用していただいています。

石原:総理が言われる「美しい国」の中心となる心。日本人が昔から持っている助け合いの精神を、インターネット上で展開したのが、Q&Aサイトというわけですね。

安倍:とかくITの世界においては、人を傷つけたり、中傷したりということが横行するという先入観があったのですが、非常に新鮮なイメージを持ちました。インターネットの世界に日本人本来の良さを取り入れていくことも十分に可能なんですね。日本人が本来持っている助け合いの精神、共生、協調、そういう姿勢を信頼して、それをうまく引き出す形で「Q&Aサイト」を成功させたことは一つの技術革新、イノベーションです。新しいものに挑戦していくとき、決してたじろがずに、積極的に、いわば楽観主義的に考えるという姿勢も大切ですね。

石原:近藤さんも仕事や資金が無くて困っている人を助けてあげる目的でファンドを立ち上げたそうですね。

近藤:はい。私たち自身、地域の方々からすごく応援をされて起業できたという経緯もあり、地域の人が地域のために起業するチャレンジャーを応援しようという趣旨で地域の出資を得て「地域維新ファンド」を立ち上げたんです。今、山口県との共同事業として、県の施設を民間が管理する「指定管理者制度」を利用して、三つの教育施設を管理しています。また、官業の民間開放を促進する市場化テスト法に基づいて、「食と緑の県民フォーラム」という、官民共同の事務局を運営しています。より良いものをつくっていこうと官民がお互いに競争しています。

石原:安倍内閣の最重要課題は、地域の雇用を拡大し、地域経済をいかに元気にしていくかということですが、山口県ではすでに民間主導で事業が進んでいるんですね。

安倍:「地域維新ファンド」とは、名前がいかにも山口県らしい(笑)。そういうファンドができると、地方で東京に行っている人たちが「地元は自分のお父さんお母さんもいるし、もっと元気になるといいな」と思って、応援してくれる。そういう形も望ましい形の一つではないでしょうか。県内に限らず、県外で活躍している人たちからも、ぜひファンドを募ってね。

近藤:そうですね。

安倍:各県にあれば、大都市部にいる地域出身の人たちが、そういうファンドを応援するということになって、地域が活性化されるのではないでしょうか。

利益より『傍を楽にする』ことが大切
兼元謙任オウケイウェイヴ代表

石原:総理は日本人として失ってはいけない感性をとても大切にしておられます。働くことの意義、尊さについても力説しておられます。兼元さんは「働く」ことについてどうお考えですか。

兼元:働くというのは「傍(はた)を楽にする」ということなので、おカネというよりもまず、周りに対して何ができるかが大事です。松下幸之助さんも、社会貢献が企業として一番で、利益はその見返り、ギフトとしていただける。新しい利益がたくさん出たときには、より良い社会貢献をしろと言っていたように、そういう形でぜひやっていきたいと思っていました。それと、働く上で、目標が大事だと思っています。私は『グーグルを超える日』という本を出版させていただいたのですが、次の世代、われわれがITベンチャーとしてグーグルを超えるような企業を日本から生み出そうと、高い目標を掲げています。

安倍:お二人とも、もともとボランティア活動をやっていて、地域や世の中のために何かしたいという動機があったと思うんですね。もちろん企業化すれば利益も必要ですが、いくら利益の山をつくったって、これは空しいんだろうと思います。瞬間的に達成感はあるかもしれないけれども、それが必ずしも豊かな人生ではないと思います。かつて日本は、バブル経済を経験し、経済的利益の極みを経験しましたが、逆にそういうものがある意味でいかに空しいかを、実感したと思うんですね。では、日本として誇るべきものは何か。もちろん活力を維持し、高い経済成長を目指していくということは大切ですが、誇るべきは、経済規模の大きさや国民全体の金融資産の量ではないでしょう。私たち日本人の文化や生き方、いかに人や地域や世界に対して貢献しているかということにこそ、心のよりどころを求めるべきだと思いますね。そこで、近藤さんが言ったように、やりたいと思っていることを継続をしていくためには、ビジネスとして成立しなければいけない。この兼ね合いが難しいんでしょうけど、そこで心棒を通しておく。兼元さんは「傍を楽にする」とおっしゃったけれども、そういう哲学を持っている人というのは、非常に強いと思うし、そういう人の人生というのは豊かだと思いますね。

地域にこそ知恵があり解決策がある
近藤紀子地域維新グループ代表

石原:地域社会が崩壊していくと叫ばれて久しいわけですが、その中で近藤さんは「やっぱり山口だ!」 という地域へのこだわりをお持ちだと思いますが。

近藤:地方は今、困っています。いろんなことで困っています。だからこそ知恵が生まれると思うんです。私たちはまた、「田舎こそ社会起業」というキャッチフレーズで、田舎だからこそやろうというふうに思っているんです。実は私たちのところに就職を希望する大学生や、再就職をしたいという社会人から、今年だけでも、二十人ぐらいから問い合わせが来います。それはやはり儲けたいわけじゃないんですね。お金ではなくて、やりがいだとか、仕事に対する誇りを持ちたいという若い人たちがたくさんいるんです。私たち若い世代が、現場で困っていることを解決する「現場主義」の面白さというのを、全国に向けて発信すること。それを私たちは楽しくやっています。今までは日本全体が困難な時代には、中央集権で、国がいろんな政策を決めて、日本全体を守ってきました。しかし、いろいろなことが成熟して、多様化した今、現場にこそニーズがあり、解決策があると思うんです。その現場を知っている民間非営利団体(NPO)などに、政府が支援をしていく。政府がつくっていく時代から、政府が現場を支援して地域の活性化へ結びつけていく時代になってきてるのではという思いもあって、今はやっぱり地域だなと感じているんです。

石原:いまのお話で冒頭、私はちょっとギクッとしました。「地域が困ってるんです」と言われたから、国で何かしてくださいという話かと思ったら、そうではなくて、困ってるからこそアイディアが出る。公が担えなくなったものを、近藤さんたちのセクターが肩代わりしてる。まさに「官から民へ」ですね。

安倍:やはり地域の活力がなければ、日本全体は元気になりません。かつて、日本は右肩上がりの経済成長をしていましたから、その果実を全国に国が配った。基本的にはインフラ整備という形で公共事業を中心に、国が地方を押し上げてきました。しかし、それができなくなったわけですね。できなくなったら、いま近藤さんが言われたように、アイディアを出さなければならない。ちょうど今が、次のステップに移っていく転換期間なんですね。ですから、ある意味で今が一番大変なんです。 地域の各企業も、かつての仕組みに対応するものだったと思うんです。だから「待っていたって駄目だよ」と、一方的に批判はできないと思います。地域が、新しい時代にふさわしいあり方を考えていって、知恵を出しながら、それが何とかビジネスとして成り立つようにしていく、地域の皆さんに頑張って知恵を出していただいて、それを国が応援をしていくという、いま近藤さんが言ったタイプに変えていかなければなりません。ですから、私の内閣で「頑張る地方応援プログラム」をやります。こういうふうに地域を発展させたいと思う地方の自治体に対して、交付税を新たに措置していく。そのためにはアイディアを出さなければいけない。ところが、これがなかなか、そこに住んでいるとその良さがわからないというところもあるんですよ。だから、むしろ外部の人のいろんな意見も聞きながらということも、一つの大切な点ではないでしょうか。

志を持つ人々が集まる『美しい国』を
石原伸晃幹事長代理

石原:中央集権国家、すなわち公共事業を差し出すことができない時代になった。それはある種の成熟化だと思うんですね。日本の人口構造を見ても、去年から減りだしていますし、これから生産年齢人口もどんどん減少していく。そんな中で、お二人はアイディアと知恵を出されて、創業され、地域に、あるいは社会に貢献されている。志を持ち、日々、汗を流されているんだと思うんです。そんな人たちが多く集まれば集まるほど、総理の目指す「美しい国」に近づいていくと思います。

安倍:私は日本を美しい国にしたいということを申し上げて総理になりました。この美しい国というのは、まずは日本の素晴らしい、美しい自然や、長い歴史や、文化や伝統を大切にする国でなければならないと思います。やはり日本というのは自由な社会ですから、この自由な社会を基盤に、しかし、規律を知っている凛とした国でなければならないと思うんですね。そしてもう一つは、成長していくという、エネルギーを持ち続けていく国でもなければならない。もう一点は、世界において、世界から信頼されて、愛される、頼りにされる、リーダーシップのある国でありたいと思います。しかし、そういう国をつくっていくのは、われわれ政治家が主張するだけでは決してできません。皆さん一人ひとりに担い手になってもらいたい。そういう意味で、お二人がそもそも会社を起こした動機が、もっと周りのために役に立ちたい、今日よりも明日をよくしたいという思いで会社を起こされた。そういう人たちがどんどん増えてくることが「美しい国」へ近づいていくということになると思います。ですからわれわれは、皆さんのような若い人たちをぜひ応援していきたい。まさに未来はお二人のような皆さんのためにある。そして今、何をするかにかかっていると思うんですね。将来が暗いということを語ったり、やっぱり日本はダメなんじゃないかということを語ることに、何か喜びを感じている人たちもいるんですが、そういう時間があれば、今、何をすればもっと日本がよくなるかということで、私もお二人と共に汗を流していきたいと思います。

兼元:私ども、Q&Aサイトをやってるんですが、まさに困ったことと、それに対する経験値を伴った解決策を皆さん、交換していただいていて「美しい国」をどうつくっていくか、その問題点と、それに伴った経験値を集めることで、ぜひ応援をさせていただければと思います。また、近々、米国、中国にもQ&Aサイトを開く予定ですが、日本のいいところは何で、いいところをどうやったら海外に伝えていけるかというところにも挑戦していきたいです。

安倍:それは大切な点ですね。世界に日本のアイデンティティー、こういう国なんだ、こういう理想を目指しているんだというのを、ぜひ発信してもらいたいと思いますね。

近藤:私たちも、山口県だけでなくて、山口大の同期のベンチャー論の仲間で島根の東出雲で、産官学連携でブルーベリー農場を広大な敷地でやろうとしている仲間がいたり、学生耕作隊も今、島根に広がっているんです。そういう仲間たちと一緒に輪を広げていきたいと思いますし、去年、ソーシャルベンチャー・ネットワークというアジアの国際会議も私たちが主催しました。地域と地域がつながって、それは何も日本だけでなく、グローバルな形を考えてやりたいと思います。その中で、私たち、悔しかったのが、海外の社会企業家たちと私たちとを比べたときに、やっぱり日本の若者は「負けるかな」という思いを持ちました。もっともっとアグレッシブにならないといけないと思います。同時に、民間の私たちだけが頑張ってもダメだなというふうに、今、強く思ってます。官の皆さんたちにも、競争原理を導入して、市場化テストも広げて公共性と市場原理をどう調和させていくかが、これからの課題であり、美しい国への一歩ではないかなと思います。

安倍:今のような声が地方からあがるとは、本当に時代は変わったんだと、今日は再認識しました。どうもありがとうございました。

石原:私たちの世代で新時代をつくっていきましょう。総理、兼元さん、近藤さん、ありがとうございました。今年も一年、頑張りましょう。

▲ このページのトップへ戻る