トピックス

近年、盗難にあったり、偽造されたりしたカードで預金を引き出される被害が続出し、大きな社会問題になっています。カードを盗まれたという点では預金者にも落ち度があったことは確かです。しかし、この犯罪が多発している根本的な原因はカードと4ケタの暗証番号という銀行のシステムが、高度化・組織化が進む犯罪に対処しきれていないことにあります。偽造できないようなカードや、簡単には盗めない暗証番号システムであれば、このような犯罪は起きないからです。

そのような観点から、私が会長を務める自民党金融調査会の下に、被害者救済のための法案をつくるプロジェクトチームを設けて検討を続けてきました。その結果、8月3日の参議院本会議で偽造・盗難カード犯罪に関する預金者保護法が成立し、2006年2月から施行されることになりました。

今回の法律は、被害の全額補償を原則にした画期的なものです。すなわち「キャッシュカードに直接暗証番号を記入していた」とか「第三者に暗証番号を教えた」など、預金者に重い過失があったことを、金融機関が証明できなければ、被害は全額補償されるのです。これまでは、カードが盗まれたり、偽造されたりして、不正に預金が引き出されたことに関して「自分に責任はない」ということを、預金者が証明しなければなりませんでした。過失が「ない」ことを証明するのは極めて難しく、結局ほとんどの被害者は補償を受けられませんでした。

今回の法律により、今後の盗難カード被害については、(1)金融機関が預金者の過失を証明できなければ全額補償、(2)預金者の軽い過失を証明できれば75%補償、(3)預金者の重い過失を証明できれば補償ゼロ、とします。また偽造カードについては、銀行側が預金者の重い過失を証明できない限り全額補償としました。預金者は自分が盗難にあったことに気づいた後、速やかに金融機関に通知する義務、また捜査機関へ届出たか、どこでどう盗難にあったのかなどを金融機関に説明する責任を負います。

今回の法律の対象となった、キャッシュカードの偽造・盗難事件ですが、近年とみに被害が増加していました。その代表例として、ゴルフ場を舞台にしたキャッシュカードの偽造事件をご記憶の方も多いことでしょう。ロッカーの中の銀行キャッシュカードからデータを盗み、本人も気づかないうちに、偽造カードで口座の預金を引き出す。巧妙で悪質な大規模窃盗グループが摘発された事件です。

この犯罪は、カードに記録されたデータを手のひらに入る程度の「スキマー」と呼ばれる機械で読み取る「スキミング」と呼ばれるものです。窃盗犯は本物のカードからデータを読み取り、そのデータをもとに偽のカードを作ります。カード自体はなくなっていないので、持ち主が盗難に気づかず、警察や銀行への通報が遅れることになります。スキミングには高度な技術、システムが必要なため、背景には大掛かりな犯罪組織が存在していると言われています。「カード情報を盗む」「カードを偽造する」「現金を引き出す」の分業がなされているのが最近の傾向で、しかも、この犯罪は、香港、日本、英国といったように国際的な広がりもみせています。

スキミングの機会も年々高度化し、いまや非接触型のスキミング機材なるものまで登場しています。これは、満員電車などの人込みで、財布の入っている胸ポケットやハンドバックなどにから、直接触れなくてもそれにかざして情報を盗み出すための機械です。機械を通さなくても良い電車の定期券のイメージです。コートの上から、さらにかばんの中からでも情報を盗み出せるのです。

この犯罪のもう一つのポイントは暗証番号です。いくらカードが偽造できても暗証番号がなければ現金は引き出せません。実は、暗証番号はカードではなく、銀行のコンピュータに入っています。ですから、カードから情報をコピーしても暗証番号は分からないのです。そこで、窃盗犯たちは、何としても暗証番号を嗅ぎ出そうとATMコーナーに網を張り、覗き込んだり、ビデオを仕掛けるのです。ゴルフ場の例ではロッカーの暗証番号に、キャッシュカードと同じ番号を使っていた人が主に被害にあっています。

これまでの法律では、正しい口座番号と暗証番号で現金が引き出された場合、銀行には責任がないとされていました。カードが偽造でも、正しい口座番号と暗証番号で現金が引き出された以上、銀行に補償の義務はないとされていたのです。被害にあった預金者が補償を求めるには、自分に落ち度がないことを、自分自身で証明しなければなりませんでしたが、銀行の情報提供も少なく、ほとんど補償は受けられませんでした。またこれまでの法律では、偽造や盗難キャッシュカードの被害者は、預金者ではなく銀行でした。預金を引き出されても懐が痛まない銀行は、被害者意識は薄く、被害の補償が進んだクレジットカード業界に比べ対策は遅れていました。

アメリカでは、預金者がカードの紛失や盗難に気づいてから、2営業日以内に銀行に通知すれば、預金者の負担は最大50ドル(約5000円)ですみ、残りは銀行などが補償する『50ドルルール』が法律化されています。また、イギリスでも預金者の負担を最大50ポンド(約1万円)とする自主規制ルールを作っています。銀行の犯罪に対する対応の遅れとともに、このような被害者救済のためのルール作りも、日本ではこれまで行われなかったことが、被害を拡大してきたともいえます。

いずれにせよ、犯罪は憎むべきものです。また、何の落ち度もないのに被害にあわれ、老後の資金や子供の将来のための積み立てを奪われた被害者の方の救済は一日も速く、速やかに行われねばなりません。その意味で、今回の法律は、まさに画期的なものです。それと同時に、私たち国民の一人ひとりが、容易に推測されないような暗証番号を使う、また、カードの管理を厳重にする、など、それぞれが自分のできる範囲で犯罪を抑止する努力を払うことも、また必要なのです。

▲ このページのトップへ戻る