現在三菱ふそうと三菱自動車工業による、リコール隠しが大きな社会問題化しています。私自身もこの問題については、次々に噴出する新たな問題に、驚きを禁じえないというのが、率直な印象です。
いまやクルマ抜きの社会など考えられないほど、クルマは私たちの生活に密着しています。しかし、全ての工業製品がそうであるように、構造上の欠陥があったり、使用法を間違えたりすれば、便利で快適であるはずのクルマも「走る凶器」たりえます。それを防ぐためにあるのが、リコール制度です。今回の事件は、そのリコール制度の根幹を揺るがしかねない、重大なものです。そして何より、日々クルマに乗っているユーザーの不安を考えたとき、一刻も早い点検・修理、原因の究明、そしてこのようなことが二度と起こらないための再発防止の徹底が必要なことは、言うまでもありません。これ以上、痛ましい事故の犠牲者を出さないためにも、国土交通省としては、リコール制度の改善・強化のための、メーカーへの指導強化、情報の収集・分析体制の充実をはじめ、実証実験の導入などできる限りの努力を行っています。毎日のお仕事や生活の中、ユーザーの皆様にはご不便をおかけすることもあるかもしれませんが、ぜひご協力をお願いいたします。
今回の事件のそもそもの発端は、平成12年にまで遡ります。その年、三菱自動車(平成12年当時は三菱自工と三菱ふそうは一体、平成15年1月6日に分社化)による17件、62万台に及ぶ組織的なリコール隠しが発覚したのです。国土交通省は、道路運送車両法違反で、同社を警視庁に告発。翌年、警視庁は三菱自工と三菱自工の幹部9名を書類送検しました。
当時の社内調査により、クレーム情報が二重管理され、平成10年から12年までの8万8千件に及ぶ情報のうち、国土交通省の監査に対し、その3分の2が意図的に隠されていたといった実情が明らかにされました。三菱自工は、全社員の意識改革、特にコンプライアンス意識、外部への情報開示姿勢を根本から変えることを誓い、再出発を計ったのです。
しかし、その体質は全く改まってはいませんでした。今回の事件の発端は、平成14年1月、横浜市で、トラックのハブ(タイヤと車軸をつなぐ部分)が破損し、外れたタイヤが主婦を直撃し、死に至らしめた痛ましい事故でした。当初、三菱自工は、ハブの破損は「不適切な整備・使用によるもの」としましたが、その後、国交省の事情聴取等により従来の説明を覆し、事故の原因が設計ミスにあったことを認めリコールを届け出ました。そして本年5月には道路運送車両法違反及び業務上過失致死の容疑で逮捕者7名を出す事態に至ったのです。これを受け、三菱ふそうは本年6月、「企業統治体制の強化」のため、社内で企業・組織としての問題点、あるべき企業風土の特定、現状とあるべき姿のギャップの埋め方につき検討し、1年以内に結論を出すと約束しました。
しかし、その後も、次から次へと情報の隠蔽が噴出しました。中でも、97件の不具合につき、三菱ふそうが国交省に事務的に報告しながら、内容を国民に明らかにしなかったことには、驚きと同時に、怒りを覚えました。私は、三菱ふそうの情報公開に対する姿勢に、根本的な問題があると考え、6月8日、国交省より速やかに97件の情報を公開すること、今後、三菱自工・ふそうは定期的に情報を開示することを指示しました。結果的に、三菱ふそうで159件、三菱自工で92件、合計251件の不具合情報隠しが判明。うち、リコールが必要なものは75件にのぼりました。
今回の事態を受け、国土交通省でも、リコール制度の改善・強化のため「リコール改善推進室」を発足しました。これまでに比べ職員を倍増、クルマの不具合に関する情報収集のためのホットラインとそれに対処する専用チームを設け、情報収集・分析システムを強化するとともに、リコール制度運用を見直すリコール制度運用改革チーム、技術的な検証のスキームの構築を行う技術的検証チームと、3つのチームで構成します。今年度予算から約5,000万円、来年度は5億円程度を概算要求し、しっかりとした検証体制を作っていきたいと考えています。
しかし、まだまだ問題解決への道のりは遠いようです。7月8日の三菱ふそう定例会見で、クラッチハウジングの不具合につき、虚偽の発表が行われたのです。ポート社長によると、品質管理担当の部長が、「社のために発表してはならない」と考え、独断で事実を隠したということでした。これは、これまでの一連のリコール隠しとは違い、現経営陣の下で行われたことです。過去の膿を出し切り、新たな船出を誓うその陰で、更なる情報の隠蔽が行われていたことになります。その意味でこの問題の重要性を直感した私は、早速自動車交通局長に命じ、翌々日の土曜に三菱ふそうの社長を呼び、事情を聴取するとともに、検査体制充実の指示をさせました。
今回の一連の事件については、三菱自工・ふそうにおけるコンプライアンスの欠如が指摘されています。私もそう思います。それでは、コンプライアンスとは何か。普通は「法令遵守」と訳されることが多いようですが、コンプライアンスとはもともとコンプライという動詞の名詞形。つまり「しっかり守ること」を意味します。では「何を」しっかり守るのか? 法律を守るのか、社内規定を守るのか。倫理や企業の将来ビジョンか、企業によってもそれぞれ違いますが、基本は一緒です。
大きなものから小さなものまで、問題が起きない企業はありません。だとすれば、問題を隠すのではなく、それをきちんと処理する能力を示すことが、企業が信頼を得る唯一の手段であるという意識がコンプライアンスの基本です。そしてそのために必要な体制を日頃から構築することが求められるのです。これはまた、リコール制度の基本理念でもあります。自動車も人間の作った物である以上、発売当初には予想もできない欠陥があることはむしろ当然のことです。その欠陥を会社が自ら認め、回収、修理等を行うことで、会社の信用も増し、製品も信頼される。そのことを会社が理解し、自ら進んで行うのが、リコール制度の基本なのです。その意味で、今回のような意図的なリコール隠しは、リコール制度を根底から揺るがすものなのです。また技術的にも、欠陥をきちんと認め、その原因を究明することで、次にまた同様の失敗を繰り返すことが避けられます。今回は欠陥を隠蔽したことで、そういった技術陣へのフィードバックが行われず、同じミスを繰り返し、問題を大きくしたようです。
ある調査によると、不祥事が続出する企業・人物にはいくつかの共通項があるといいます。それは、業績至上主義であること。違反者はベテランで信頼のあつい中間管理者で、同じ職についている期間が長く、休暇を取らない働き者であること。同僚や部下による意識的な協力、見て見ぬふりが行われていること。企業の行動規範や倫理教育がないこと。更に不正発見と事後処理に対する対応がおそまつであることなどです。これらは全て今回の事件にも当てはまっているようです。三菱自工・ふそうに関して言えば、今回、事件が更なる展開を見せたことで、今後非常に苦しい状況を迎えることが予想されます。また、リコール制度という、国民の生命や安全を守るために必要不可欠な仕組みの信頼を損ねたことは許しえません。しかし、やっと回復基調に乗った昨今のわが国の経済状況を考えたとき、三菱自工、ふそうという巨大企業が、この問題により、一瞬にして瓦解することの影響は計り知れません。その意味でも、三菱自工・ふそうの関係者にはこの問題をラストチャンスとして、これまでの企業風土と決別し、本当の新たなスタートをきってもらいたいと考えます。


