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対談
小泉純一郎
vs
石原伸晃

石原のぶてる:本日はありがとうございます。小渕前総理が志なかばに病に倒れ、森新総理の誕生となったわけですが、まずご感想をお聞かせ下さい。
小泉順一郎:今回ほど「一寸先は闇」という言葉を実感したときはないね。とにかく「まさか」の一言。もう一つ、小渕総理の退陣は避けられないとなったとき、相当の混乱を予想したけれど、わずか三日で、混乱もなく、新総理が誕生した。これも驚きだったね。
石原:森総理に何を期待されますか?
小泉:選挙に勝つこと。勝たなければ森カラーは出せないからね。政権を取った以上、本格政権を目指すべきだけれど、その為にも選挙に勝つしかない。
石原:具体的な政策としては。
小泉:景気回復も大切だけれど、とにかく日本の構造改革を断行して欲しい。その為にも構造改革は景気にはマイナスという誤解をたださなくてはならない。小渕さんは「二兎を負うものは一兎をも得ず」と言って景気回復ばかりだったけれど、僕はそうは思わない。構造改革の痛みを先送りして、借金を重ねて予算を作れば景気が良くなるわけじゃない。
石原:今度は小泉さんが森総理の脇を固めているわけですから、お目付け役として改革を断行して下さい。ただ改革には痛みも伴います。痛みを避け、改革を先送りしがちな最近の日本の政治には、何が足りないんでしょうか。
小泉:困難に立ち向かう意欲が足りないな。改革の困難を避け、楽なほうへ、楽なほうへと逃げている。前回の選挙の際、全ての政党、全ての候補者が行財政改革を掲げた。わずか三年前のことです。しかし実際やるとなったら、その難しいことを避けて、改革を先送りしてしまった。
石原:自分達の身を切る努力もしないで、安易な道に走っているんですね。
小泉:改革に抵抗する勢力の強さにおびえているんだ。
石原:旧体制とは、常に改革を遅らせ、既得権益を離さないものです。日本の最大の病巣は、どこですか。既得権益を守ろうとしているのは、誰なんですか。
小泉:一番の責任は政治家にある。官僚に頼り、政治主導になっていないんですよ。政府委員の廃止や総括政務次官の導入も、「政治主導」ではなく「政務次官の官僚化」になっている。あれはただ、官僚の書いたものを読んでいるだけ。それより、大臣を一年ごとに交代させるいまの仕組みを変えた方がはるかに効果がある。クエスチョンタイムだって、形式が大事なわけじゃない。やろうと思えばいつでも、どの委員会でもできるんだ。官僚の書いた紙を読まなけれければ良いんだから。
石原:制度の問題じゃないんですね。
小泉:そう、人の問題なんだ。例えば、選挙制度にしても、小選挙区制とは、無党派層の人の支持を得ないと当選できない制度。だからこそ特定の人にだけアピールする様な偏った政策や、利益誘導がなくなるといってこの制度を導入した。ところが自民党は無党派層をあきらめてしまった。かつては投票率が高いと自民党は勝った。今は逆。高いと負ける。
石原:日本は、戦後の焼け野原から、アメリカに追いつけ追い越せと頑張ってきた。自民党は共産主義勢力に国を任せちゃいけないという無党派層を吸収して、政権を維持してきた。その自民党が目に見える票だけを追いかけて、本当の多数派である目に見えない層を捨ててしまった。このままでは国民の政治離れがさらに加速してしまいます。
最近の政治は、朝令暮改が多すぎます。先ほど小泉先生も言われた通り、政治家が困難に立ち向かう勇気をもち、一度約束した事は、必ず実行することが国民の政治離れを解消するための第一歩ではないでしょうか。
小泉:サムライの精神だね。
石原:先ほど森総理の第一の課題は、選挙に勝つこと、というお話が出ましたが、どうですか、選挙は近いんですか?
小泉:小渕さんはサミットの成功に全力を傾けた。しかし森さんはこだわらない。やるべき時にやるしかないわけで、その判断を誤らないようにして欲しい。
石原:政治家に大切なのは、はっきりしたビジョンを持ち、いま何をすべきかを、国民に示す事です。
小泉さんは「いま日本がすべき事」とは何だとお考えですか。
小泉:時代に対応できない官僚制度を変える事。いま政府は莫大な借金を抱えながら、限界に近い景気対策をしている。なのになぜ効果が出ないのか。政府と国民の間で、役所がやらなくても良い仕事をやり、国民が栄養を吸収する邪魔をしているからだ。この構造を壊さないと。
石原:政治家にできますか。
小泉:残念ながら、いまのままだと政治主導ではなく、経済の混乱と財政の破綻が日本を変える事になる。明治維新も、第二次世界大戦も、日本の発展は行き詰まりから始まっている。日本はこのままじゃ行き詰まる。でも、それが改革の原動力になる。
石原:政治は受け身なんですね。
小泉さんが十人いてもだめですか。
小泉:石原慎太郎・東京都知事だって、一人であれだけやっている。やる気があれば、時代が後押ししてくれるんだ。慎太郎都知事があれだけできるなら、森総理だからできる事、森総理じゃなきゃできない事だってあるはずだ。
石原:これまでの保守政治には、やるべき時は泥をかぶってでもやるという姿勢があった。そんな健全な政治がなくなろうとしています。それに代わるものを、いま準備しておかないと、小泉さんの言う混乱が起きたときに対処できなくなります。
小泉:困難に立ち向かう気力だよ。
石原:金融国会が良い例です。金融危機の存在はずっと前からわかっていたのに、問題を先送りしてきた。危機が現実となってさえ、その原因を徹底的に取り除こうという我々の考えは退けられた。「もっとゆっくりいきましょう、石原さん」と。問題を先送りする、政治がそういう「ことなかれ主義」と決別するという強い決意を示すべき時にきています。
小泉:敗戦が戦後の日本経済の発展の原動力だった。今度は財政破綻が日本発展の原動力になる。
石原:小泉さんは厚生大臣の経験も長く、社会保障のエキスパートです。いままで、年金・医療・介護とバラバラに議論されてきた少子高齢化時代の社会保障制度のあり方について、専門家のご意見をお聞かせ下さい。
小泉:一番大事な事は、自助と自立の精神。自らを助ける精神。自ら立つ精神。これがないとうまくいかない。介護保険には、サービスを受けない人にも負担して頂き、税金も入れている。みんなで支えあっている事に対する感謝の気持ちがなくては成功しない。
石原:年金についてはいかがですか。
小泉:年金とはまさに「支えあい」だ。かつては子どもが親に仕送りしていた。しかし現在、毎月二〇万も親に仕送りできる人なんていない。ところが月々二〜三万の保険料を払えば自分の親の世代は毎月二〇万もらえる。これが年金制度でしょ。昔は医療費も、薬代も高く、医療は金持ちだけのものだった。しかし医療保険なら、病院にいかない人にも負担してもらう事で、皆が医療を受けられる。介護もそうせざるをえない。「あいつがもらっているんだから俺も」では制度はもたない。だからこそ、自分で努力してもらう部分と公でやる部分との境界をはっきりすべきだ。あれもこれもで自立の精神をなくすようではいけない。
石原:これまで美徳とされてきた地域の助け合いがなくなりつつあります。しかし、これからの高齢化社会に対応するには、小泉さんの言われた「自助努力」と、助け合い、すなわち「共助」の考えが不可欠です。政府がなんでもやるシステムでは現役世代の負担は莫大になってしまいます。
小泉:もう一つのポイントは民間活力。介護保険には民間活力を導入した。民間は営利事業をやり、官は公共の仕事をするという時代じゃない。むしろ民間に、いかに公の分野に進出してもらうか。役所が民間でもできる分野からいかに手を引くか。これをやらないと日本は駄目になる。
石原:生産性と競争がないと駄目なんですね。お役所仕事というのは競争のない社会ですから。民間にどんどん権限を移して、官はあくまでもそれを補完するようにしないと。
小泉:同じ仕事しても民間がやれば民間は税金を収める。官は税金を使う。まるで逆なんだ。
石原:省庁を再編しても、役人も減らないし、仕事も減らない。これで、バラマキ予算を続けていれば、財政破綻という形で必ずツケを払う時がやってきます。私たち世代が贅沢したツケを子供たちに払わせるわけにはいきません。小泉さんには行財政改革の火を消さず、スリムな政府を作って頂きたいと思います。
本年は私にとっても四度目の勝負の年。子供たちの世代のために働き続けるためにも頑張ります。本日は、ありがとうございました。

