マスコミ語録

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週刊文春
1999年7月15日号

文春図書館 いつか読む本
『戦争と平和』の背表紙

-- 石原伸晃(衆議院議員) --

言わずと知れたトルストイによる世界文学の最高峰である。
私が育った逗子の家には父の寝室の奥に厚い木の扉で閉ざされた書庫が有り、よどんだ重い空気の中、父のコレクションの本や画集が何千冊と鎮座ましましていた。そこは家族の誰もが立ち入り禁止の父の聖域だったが、ある時、背伸びしたい盛りの中学生だった私が父との対等の会話を試みようと、お薦めの本は、と尋ねたところ、父は私を書庫に伴い、赤い表紙の世界文学全集を指差した。この全集の出し入れに限ってのみ出入り自由、と言われた時の晴れがましさ。弟達の尊敬の眼差しを背に半ばカッコつけで手にした全集だったが、間もなく私はすっかり新しい世界の虜になってしまった。

『赤と黒』、『二都物語』、『変身』、『車輪の下』、『老人と海』、『谷間の百合』。次々と登場してくる人物達は皆、それまで私の想像だにしなかった人生を背負って苦情し、歓喜していた。ある時は共感し、ある時は首をかしげながら読破して行って、最後に残ったのがロシアの巨匠達の作品。『悪霊』は読んだ。『罪と罰』もなんとか行けた。しかしこの『戦争と平和』。なんとも退屈なのである。長いのである。もてあましている私を見て父は、トルストイこそが武者小路実篤や有島武郎に影響を及ぼし、日本近代文学の発達に寄与した作者なのだと言う。そうか。ナポレオンも出てくることだし、と気を取り直し再び向かうが、格好の導眠剤以上のものにはならず、結局途中で投げ出してしまった。

以来私は文学と言われるとあの『戦争と平和』の金文字の背表紙を思い浮かべるのである。

読書どころかうっかりすると新聞も読み揖なってしまうような多忙な毎日だが、いつか必ず、あの大歴史長編小説を征服し、しみじみと読後の余韻に授りたいものと思っている。

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