マスコミ語録

メディアに掲載された石原伸晃関連記事を以下よりご覧頂けます。

文芸春秋 1999年1月号

特集 マネー敗戦
父と子の対米戦略会議
逆襲せよ、日本!

弱肉強食、本能主義のアメリカによる世界支配を許すな

伸晃:『宣戦布告「NO」といえる日本経済』がベストセラーになっているようですね。

慎太郎:でも最初に出した『「NO」といえる日本』のときは、アメリカ側から激しく警戒されたのに、今回はちょっと様子が違う。先日あるアメリカ人と話していたら、「石原さん、もうアメリカは日本のことを恐れていないです。小渕さんはアメリカの日本支店長ぐらいにしか見られていません」というんだ。ここまで日本は嘗められているというのが現実なんだ。

伸晃:あの本は金融を扱っていることもあって、基本的には難しい内容だと思う。それが売れているということは、日本人の心の中にアメリカに対する経済的敗北感があるという気がします。

慎太郎:確かに簡単な内容ではないかもしれない。デリバティブのスピリットと先物の違いがなんだとか、細かいことは僕にもなかなか実感は掴めない。けれども、実際それに携わっていた人たちと話していると、その怪物の輪郭は、物書きイマジネーションで見えてくる。
かつてニクソンが大統領の時代にアメリカは金本位制をやめた。そのとき僕は、直感的にアメリカはこれを盾にとって自国に有利な金融戦略をやろうとしているのではないかと考え、政治家や役人に話した。だが、彼らは全然そういうことには関心を持たないんだ。それで30年近く無為に過ごして、アメリカによるドルの垂れ流しを許し、それが結果的にドル支配の強化につながり、アメリカを金融帝国に押し上げてしまった。そういう問題意識から、この本を書いてみたんだ。

伸晃:残念ながら、永田町というのは殊に金融問題に関しては、レベルが低いんです。
金融国会の最中にロイター通信のインタビューを受けた際、「自民党の国会議員衆参370人のうち、農業や建設のことがわかる人は200人いる。でも経済のことがわかっている人は2、30人しかいない」と話したら、その発言のそのもの報道されて、株が暴落してしまった。ロンドンでディーラーをしている友人から電話がかかってきて「こんな事言われたら困る」と釘をさされてしまいました。

実に見事な「官民グル」

慎太郎:アメリカを見てごらん。ヘッジファンド・LTCMの処理などで、FBRのグリーンスパン議長の音頭取りで、みんなで多額の金を出し合い救済した。あっという間に官民一体で解決してしまった。何人かの議員が「言わばラスベガスへ行って大損した者に、なぜ金を出すんだ」と下院委員会で反対していたが、大事となればそんな声は無視して片付ける。日本人が知らなければいけないのは、日本よりもアメリカの方が解決が早いということよりも、実に見事な「官民グル」ということです。それは例えば人材面でもルービン財務長官は元ゴールドマン・サックス会長であるし、クリントン政権はウォール街政権だとはよく言われることでもある。

伸晃:官民グルというのは同じだと思うのですが、日本の場合は大蔵省が上にいて、民は下から見上げるようなシステムになっています。それに対してアメリカは官と民が同じレベルでグルになっていて、個々の企業が儲かることで、国力が増すようになっている。

慎太郎:日本のシステムは、本当の意味でのグルとは言えない。依らしむべし、知らしむべからずでね。

伸晃:やっていることはアメリカと似ていたと思う。たとえば金融の問題では大蔵省はMOF担を通じて、三つぐらいの銀行に政策案を作らせる。その三案を用意しておいて、政治家にA案を見せて、駄目だと言われたらB案を出すようなことをずっとやってきた。民間のやり方をおり込むその様なやり方はそれなりに機能していたんです。
ただそれは日本の国力を増進するためではなく、根底では大蔵省の先輩がどれだけ天下り先を確保できるかが、最優先課題になってしまっていた。

慎太郎:もう一つ我々が認識しておかなくてはならないのは、世界中ろくな銀行はないということだ。もともとアメリカでは銀行経営者はWASPではあっても油断がならないというのは常識だった。でも日本ではバンカーというと端然とした紳士というイメージがあるね。これは大きな勘違いなんだ。

伸晃:向こうの銀行はヘッジファンドの上にいるのかと思っていたら、実際にはヘッジファンドの方が銀行の上にあって資金を吸い上げている。そこが重傷を負っているのに放っておくと、銀行まで痛手を負う。モルガンやボストン・ユニオンなどの老舗までおかしくなっています。だから、LTCMを慌てて処理したんでしょう。一方、日本の銀行はというと、結局4兆から5兆の公的資金を申請することになると思う。これは結局、世界中に良い銀行なんてどこにもないということの実証です。みんな駄目になっています。

慎太郎:何が一番の原因なんだろうか。

伸晃:銀行自体が投機資本主義に巻き込まれていることです。日本の銀行は土地に金をつぎ込み、アメリカの銀行はマネーゲームに金を注ぎ込み、それが不良債権化して自分の首を絞めている。

慎太郎:だから、それを世界全体で反省して経済というのはいい技術開発で物を作る、という基本に立ち返るべきなんだろうな。つまり経済に関しての本当のグローバルスタンダードを作り直す時なんだ。

伸晃:アメリカの銀行は、かつては健全な企業にちゃんとした投資をしていた。ところが、デリバティブの方が儲けが大きいから、そちらに傾斜して銀行が博打打になってしまった。

慎太郎:モルガン・スタンレーの経営者などは「我々が扱うのは金ではなくてリスクだ」と嘯いている。

伸晃:サマーズ財務副長官はもともとハーバードの経済学者だけれど、「富を持つ国よりも、富が入ってくる国が栄えるのは当たり前だ」と公言しています。アメリカ全体がモノ経済ではなくマネー経済の方に目が向いているんです。

慎太郎:それは非常に不健全だ。彼らのやり口は、「能力のある人間、力のある人間がそれを発揮して本能の赴くままに儲けてどこが悪いんだ。悔しかったらお前もやってみろ、同じ人間、同じ国家じゃないか」ということだ。乱暴極まりない話だよ。国それぞれ規模も違えば価値観も違う。連中は世界中のモノ経済をぶち壊してマネー経済突っ走って来た。タイやマレーシア、インドネシアも彼らにやられた。それがここへ来て、ようやく破綻の兆しが見えてきた。「そういう剥き出しの本能主義はおかしい、アジアの価値観とは違う」ということを君たち若い政治家がアメリカに対して言わないと、本当にアメリカの世界支配が着々と進んでいくし、世界の経済の基本的モラルが完全にすり替えられて違うものになってしまうよ。

伸晃:アメリカは経済覇権主義でしょ。自由主義というのは、突き詰めていけば大きいものが絶対に勝つんだから。それに物を作る大切さとか、東洋的価値観というのはアメリカにはないからね。

アメリカはアジアから出ていけ

慎太郎:でもマレーシアのマハティール首相は、固定相場制を布いてアメリカに一矢を報いた。このことの意味は大きい。

伸晃:正直なところ、二ヶ月も持つとは思いませんでした。マレーシアは経済規模が小さいから三千億円もあれば不良債権が一掃できるんです。しかし、日本はそうは行かない、ここが難しいところです。
そこで問題は、お父さんの言うようなアジア共通のアイデンティティーを持つためには、やはり戦後の歴史の清算をもう一度きちんとする必要があると思う。

慎太郎:それはどういう意味の清算をするんだ?

伸晃:まず、教育レベルです。日本の学校は戦後史をきちんと教えていないから、我々の世代は戦争については何も知らない。国が金を出して、真実は何かを検証すべきです。何が真実だったか他国と共通の認識を持つのは難しいけれど、金をかけてちゃんと調べればある程度のことはわかります。

慎太郎:南京問題などはそうかも知れない。でもそれには何よりも政府の姿勢が重要だ。アメリカの覇権主義は巧妙というか、いかにも図々しいところがあるからね。この間のAPECでも、日本がアジアに資金援助しようとした宮澤構想は、アメリカが介入してきてイニシアチブを横取りされてしまうなんて、外交力前に、政府の自覚の問題だ。「アジアは我々の責任だから、あなた方はアイデンティティが薄いんだから、我々日本がやりますよ」と言えばいいんだ。

伸晃:実はこの間、アメリカの財務省の次官補代理の女性と食事をしました。民主党の仙谷由人さんと公明の平田米男さんも一緒だったけれど、彼らは「アジアのことは日本がやるからアメリカはアジアから出てってくれ」と平気で言うんです。そのアメリカ人は目を白黒させていた。
僕は与党の人間だからそうは言わずに、ヘッジファンドの問題などを例にあげて、「とにかくこれをあなた方できちんと片付けてくれないと世界経済はガタガタになります。ブラックマンデーのときは日本が金利を上げるべきところを下げてまでアメリカの為に頑張り、国内のバブルを招いた。でも今度はそんな事出来ませんよ、あなた方がしっかりしてください」という話をした。そうしたら急に顔色が変わって「今日は楽しかった。でもこれは非公式ですよ、非公式」と言って、彼女は席を立って帰ってしまった。ヘッジファンドの話は彼らにとって、一番触れられたくない部分なんでしょう。

慎太郎:それから、例のムーディーズだとか格付け会社というのも実に怪しい。日本国際の格下げなんてやっているがあれは何なんだろう。

伸晃:逆説的かもしれないけど、僕はムーディーズは日本に必要だと思う。いま日本がやっていることはポピュリズム、衆愚政治です。商品券に代表されるように、何でもありのご機嫌伺いになっている。景気対策だからということで、どんどん財政赤字が膨らんで、円の価値が下がり日本の国力も無くなりかねない。その最たるものがデフォルト状態のロシアです。あそこまで滅茶苦茶なことにならないと、日本は危機に気づかないのかも知れない。

慎太郎:たしかに格付け会社が日本を見下す根拠については、我々自身が胸に手を当てて考えなければならない。 しかし、格付け会社とは何者なんだという疑惑は消えない。あれはアメリカの戦略の一端を担っている機関に違いない。それなのに大蔵省は野村総研が格付け会社の実態を調査しようとしたとき、邪魔をしてつぶしてしまったそうだ。許しがたい話だよ。本当はこういう外国の視線ばかり気にする自立性の欠如の方がはるかに問題なんだ。自分自身で戦略を作る気概が全くない。戦後五十年で他力本願が完全に染み付いていて、アメリカに頼ることばかり考えている。頼る相手だったら善人に違いないという故なきアメリカ善玉説が意識下に定着してしまったんだ。

伸晃:そういえば、トヨタの格付けをムーディーズが下げたことについて、トヨタの奥田社長が抗議したことがありました。ムーディーズはトヨタは終身雇用制をとっているから格下げするという。こんな話を聞くと、アメリカの格付け会社が邦銀に厳しいのは、邦銀の海外での調達金利を上乗せさせて、その復活を抑えようとすることにあるのではないかといううがった見方をしたくもなります。

やられたらやり返せ

慎太郎:グローバルスタンダードと偉そうなことを言っても、所詮はアメリカンスタンダードのことなんだ。僕はメジャーリーグのゲームを見てきたのだけれど、ちょうど伊良部が投げていた。ヤンキースの四番バッターがデッドボールで退場した次の回、伊良部は相手の先頭バッターにいきなり報復のデッドボールを食らわした。それがきっかけで乱闘騒ぎになって、ヤンキースの監督は退場、伊良部も敗戦投手になってしまった。
その試合の後のこと。最多連続出場記録保持者のリプケンがコメントを求められて「当たり前だ。もし伊良部が報復のデッドボールを投げなかったら、彼は仲間から総スカンを食うだろう」と言っていた。これがアメリカのやり方なんだ。伊良部はそれが分かっているからガムを噛みながらガーンと相手にぶつけるわけだ。むしろ日本的な野茂はそういうことができなくて、何となくチームメイトとしっくりいかないのではないのではないかなと思った。
アメリカとはそういう弱肉強食の世界なんだ。彼らと互角に戦うには、こちらもやられたらやり返すという流儀での臨まなければならない。日本人はそのことを知るべきだよ。

伸晃:しかし、アメリカの覇権主義、本能主義は確かに問題ですが、かといって日本も決して威張れたものではありません。僕はこの前の金融国会では野党との交渉の実践部隊を命ぜられたわけですが、日本という国がこと金融問題については無政府状態であることがよくわかりました。

慎太郎:国民は、国会議員なんだから色々勉強していると思うかもしれない。しかし彼らの知識は全部役人の知恵。役人を使っているつもりで、実は逆に政治家が使われているんです。ほとんどの議員は省利・省益の為に働かされている。
役所に洗脳されずにマクロな視点でものを考えて「いや、俺はこう思う」という案を出せる人間は驚くほど少ない。たとえば椎名素夫氏のように非常にインターナショナルな感覚を持った人。ああいうユニークな存在は自民党の中では浮いてしまう。僕もある意味ではそうだった。君も金融問題ではそういう思いを味わったわけだ。「ちびっ子ギャング」だとか「政策新人類」とか言われてね(笑)。

伸晃:実は金融関連法案が終わった後で、梶山静六さんが僕らに一杯ご馳走してくれました。「この問題をわかっている人間が少ないから、君たちが出来たんだぞ。でも、僕の思っていることが半分以上入っていたから良しとするか」と言われたんですけど、実際その通りで、わかっている人間が少ないんです。

慎太郎:官僚統制の55年体制の中で生きてきた自民党のシニアたちの目から見ると、野党案に妥協した印象が強いというだけで「丸呑みじゃないか」という訳のわからない屈辱感が出てくるんだろうな。「自民党帝国主義」のような旧態依然たる感覚なんだが、それは実は役人が支えていて、まさにいま駄目になって瓦解しようとしているのに気がつかない。そこで君や塩崎恭久君のことを「ちびっ子ギャング」などと言っているわけだ。でも君は41歳で、塩崎君は48歳、外国だったら総理大臣になっているよ(笑)。

伸晃:政治改革の時と同じです。守旧派とレッテルを貼ったけれど、単なる言葉の遊びでしかなかった。
金融国会を振り返ると、僕らが野党との交渉を通じて死守しなければならなかったのは資本注入の一点でした。自己資本比率が下がった銀行に対して資本注入が出来る仕組みを守ることは絶対に必要だった。これは野党案の中にはなかったことです。断じて丸呑みではないのです。
これまでは法案の修正というのは、自民党をベースにしていたのに、今度は野党案がベースになった。これまでは与党としての面子が立たないと長老は怒る。でも、残念ながら法律案の出来は野党の方がよかった。もしも我々が議員立法していれば、野党案に負けない法案を作っていた。事実、当初宮澤さんが考えていた法案もそうだった。

慎太郎:じゃあ最初から自民党はそれを出せばよかったんだ。

伸晃:宮澤さんが最初に考えていたのは、破綻銀行を直ぐにブリッジバンクに持っていく、つまり国有銀行化するものでした。ところが法務省が、民法・商法との整合性がつかないという。たしかに、破綻しているかいないかわからない銀行を、株化を一方的に決定していきなり国有化するのですから、乱暴な話しです。しかし日本の社会はコスト論では解決しないようになっている。

慎太郎:その結果が、二段階で処理するという出来の悪い法律になってしまったわけだ。

伸晃:長銀が破綻しているのかどうか、僕らも情報をもらえなかった。そのため、長銀にだけ適用できるような条文を苦労して作らねばならなかった。株式の評価方式も、時価でも薄価でも高い方を適用されるように変えた。これはインチキです、粉飾を認めているようなものですから。これでは世間を納得させられません。ところが金融監督庁は最後になって「あれは債務超過でした」と宣言した。もっと早く言ってくれれば、、あんなに苦労せずに済んだんです。

慎太郎:梶サンが官房長官のときに、不良債権の額を知らなかったというのは真実の吐露だろう。官房長官や総理にも知らしめないんだからな。それは役人の背任だよ。

伸晃:大蔵大臣も知らないでしょう、きっと。僕も住専処理のときに大蔵省の西村銀行局長から「これで日本の不良債権処理は絶対だいじょうぶです」と言われて、それを信じてひどい目にあった経験がある。だから、自分たちで勉強しようと思ったんです。

政治家は役人の下僕

慎太郎:そんな官僚制度を、よく政治家は怒らないでいられるよ。本当だったら「この野郎、手前ら全員クビだ、出ていけ!」と言うべきだけど、そこまで言えないんだな。役人は公僕だが、政治家はさらにその下僕。で、役人の方はといえばクルクル替わるから「いえ私が担当じゃございません」と言って逃げてしまう。だから大蔵省も偉そうなことは言っても専門家は育たない。

伸晃:大蔵省に金融問題のエキスパートは少ないですから。相次ぐ金融不祥事で証券局・銀行局のスタッフがパージされて人数が減らされてしまったことも影響していると思いますが、もっと言えば本当に金融をやりたい人は大蔵省ではなく日銀や金融機関に行くわけです。デリバティブが何か本当にわかっている大蔵省の役人はほんの数人しかいない。

慎太郎:だから大蔵省全体の認識はというと、マネー経済というものが実態経済の25倍にまで膨れ上がって世界中を引っ掻き回す事態になっているのに、自分たちにわからないことは許せない。だから存在しないものとして無視する。つまり、存在しないのだからそれへの対処法は大蔵省からも政治家からも出てこないことになる。

伸晃:彼らが中心になって作ってきた金融システムの矛盾が、いまあちこちで噴出しています。例えば企業の粉飾決算が大きな問題になっていますが、本来なら公認会計士は間違った監査をしていたら損害賠償を請求されなくてはならない。しかし、日本では不思議なことに訴訟を起こされても絶対に負けないようなシステムになっているそうです。これも大蔵省と一体になってそういう仕組みを作り上げているのです。

慎太郎:だいたい大事な決算期になると、大手の会計事務所に大蔵省から電話がかかってきて粉飾決済の行政指導をしている。怒っている公認会計士は大勢いるよ。だから政治家は役人の言うことを聞いてはいけないんだ。族議員というのは、もう滑稽なぐらい役所の弁護をする。 例えば、米軍横田基地なんて空軍の司令部があるだけで、全く機能していないから返還させようと働きかけた。するとまず熾烈な反対があるのは防衛庁ではなくて、自民党国防部会。この連中が「石原は売国奴だ、社会党より左だ」と騒ぐ。みんな役所に洗脳されている。ああいう姿を見ると、まさに役人の下僕だね。

伸晃:僕は当選3回だけど、僕らの前の世代までは、政務次官になると役所がパーティー券を売ってくれた。しかもその金額は数千万円にもなったという。これほど世話になったら、役所の言うことを聞かざるを得ない。ところが僕の時は省内不祥事の後ということもあってゼロだった(笑)。

慎太郎:それは不幸中の幸いだったと言うべきかな(笑)

伸晃:一年生議員の時には、これから情報通信の時代なので勉強しようと思ってテレコム推進議員連盟に参加しました。議員連盟なのに、なぜか郵政省が仕切っているんですけどね(笑)。税調の会議が一段落すると、党本部に部屋がとってあって、「あ、先生、どうもご苦労様です」と呼ばれる。部屋には党本部の弁当ではなくて、美味しそうな仕出しの弁当が置いてある。「あ、この弁当は党の弁当と違って美味しいな」とか言って食べる。すると後で「石原先生、これお願いします」とペーパーが渡される。「ご発言内容」と書いてあって、次に会議が再開したときにはこれを発言してくださいとある。みんな喜ぶんです。弁当を食べさせてもらって、発言まで考えてくれて。でも、その発言内容は郵政省の権益を守る内容なんです。これはおかしいと思い、一回出て辞めましたよ。

慎太郎:それは露骨だね。僕が参議院時代にはこんなことがあった。イスラエルの駐在武官と仲良くなったら彼がこう言う。「日本はどうしてテルアビブに駐在武官を置かないんだ。
中東は米ソの代理戦争をやっているから、どの国の兵器が優秀か良く分かる。米ソの兵器に比べると、日本の兵器は話にならない」と。そこで最新データを取り寄せて調べたら、通常兵器の性能があまりにも酷かった。迫撃砲なんて重量が倍で射程距離が半分しかない。三菱重工や豊和工業が気にして、「改良いたしますからここは一つ・・・。その代わり先生の後援会に入ります」と言って来たけど断った。 すると防衛庁長官がやって来て「あれはわかっていることだから、わざわざ問題にしないでくれ」と言う。「あなたがそう言うんだったら、ますます止めるわけにはいきませんな」と言ってやった。与党の議員が自国の装備が劣悪だなんて批判したら、アメリカならスキャンダルになって政府はたじたじだよ。ところが日本の記者は馬鹿だから、だれもメモを取らない。
55年体制というのは高度成長と相まって、官庁を通じてそういう企業との絡み合いがあったけど、もうそれは終わった。その終わったことがわからない人がまだずいぶんいることが問題だね。

伸晃:本当に終わったんだろうか。防衛装備産業は不況知らずの業界だから。僕は通産次官やった関係で、防衛関係の会に呼ばれるんです。その新年会に行くと凄い。この不景気なのに、ホテルの一番大きな部屋が満員で、制服組もずらっと来ている。

市場に嫌がるのはシナとアメリカ

慎太郎:どうせ官民グルなら、防衛族議員はこう言うべきだ。「アメリカが内需喚起というならやりましょう、日米安保も色々問題あるし。北朝鮮のミサイルも察知出来ない、察知しても通達して来ない、防衛能力がない。それじゃあ日本は独自の防衛体制を作ります。安保はそのうち解消する、その前提で我々は完全に強力な防衛国家になります」とね。一番嫌がるのはシナとアメリカだから、それをやったらいい。

伸晃:でもTMD(戦域ミサイル防衛構想)はやめた方がいい。あれはミサイルが十発飛んで来ても全部は打ち落とせない。一発でも東京に落ちたら日本は終わりです。それなのに初期投資が一兆三千億円もかかる。

慎太郎:衛生はどうだ。火星まで無人探査衛星を飛ばせる国は、世界に日本とアメリカしかないんだから。

伸晃:衛星を六個打ち上げればいいんですよ。六個で3千億円で済む。これで北朝鮮を監視して、相手が撃ってこようとしたら、空中給油機を連れた戦闘機がトマホーク・ミサイルで先制攻撃出来るようにしておく。これで初めて本当の抑止力になる。そうすれば、核武装する必要などありません。

慎太郎:そうなんだ。アメリカは日本が自主防衛力を持つことが一番嫌なんだ。例えば日本が衛星打ち上げに成功した時に、外人記者クラブでヨーロッパの記者たちは「おめでとう、おめでとう」と言う。その前に二回失敗したときは「あれはCIAの策略ですよ。スタッフの中に向こうの金で動いている奴がいるんじゃないですか」と本気で心配している。それが成功すると「おめでとう、これで日本も核兵器を持てますね」だって(笑)。そういう発想というのはヨーロッパでは当たり前なんだ。そこまで行かなくても、日本の防衛族議員は独自の防衛構想なんて着想できやしない。防衛庁の掌の中で走り回ってるだけの孫悟空だね。

伸晃:確かに政治家に問題がある。しかし、悪いのは政治家だけではない。日本の一番の問題は金融問題を見てもわかるように、誰も責任をとろうとしないことです。それは国でも、町でも、会社でも、同じこと。みんな権利ばかり主張して誰も責任を取らない。戦後そういう教育で来てしまったから。本当に酷い目に合わないとわからないでしょう。
将来はもっと心配です。あとたった25年で、日本は生産者二人で一人の高齢者を支えなければいけない社会になる。工事するにも人手が集まらないようなことになる。だからこの十年の間に、今ならまだ余力があるんだから、金を外国に持っていくのではなく、日本にとって本当に必要なものを作っておかねばならない。例えば東京の電柱の地中化率はわずか3パーセント。一番進んでいる千代田区でも34パーセントでしかない。片やロンドンでやパリへ行けば電柱なんて一本もない。本当はそういうことに金を使わなければいけないのに、いまだに整備新幹線だ、中部空港だとバラまき型公共事業をやっている。

慎太郎:行く先に滝のある激流の中で、そういうことを考えずに流されながら「この岩にすがろうか、あの枝にすがろうか」ともがいているわけだよ。

伸晃:その典型が政治の世界で言えば自自連立です。自由党は自分たちが選挙で生き残れないから無理やり再婚してくれと言ってるだけ。一方、自民党は主流派と反主流派の権力争いを、野中官房長官が上手に使って連立を作ったという政局です。

慎太郎:じゃあ民主党はいいのか。

伸晃:この間、民主党幹部と飲んだのですが「石原君、君なんかとも一緒にやりたいと思うが、うちの党も五年後はあるかどうかわからないな。菅さんの人気もあと一年か二年だろう」と言っているんですね(笑)
これから政治は本当に大変です。小渕総理は金融再生法案が通ればバラ色になるかのように演説していますが、あれは出来の悪い法律です。法案作った当事者が言っているんですから間違いありません。所得税減税にしたって、破綻している地方財政をどうするのか、これからが大変なことになるでしょう。

慎太郎:日本が大変なのは間違いない。このまま下手を重ねて行くと、デフォルトになりかねないよ。しかし、だからといって敗北主義に陥る必要は全くない。日本にはまだ十分力がある。その力は何かといったら、「金」と「技術」だよ。だぶついている金融資産を活かせばいい。個人預金が1200兆円もあり、さらに企業の保有資産もあるわけだから、これをアメリカのためにではなく、日本のために有効に使えばいい。加えて高い技術力については言うまでもない。だから戦ったらいいんだよ。
こういうときには前衛的な人間が必要なんだと思う。本田宗一郎にしろ、松下幸之助、井深大にしろ、役人の世話になどならず自分流のやり方で道を切り開いてきた。いまだってアメリカを相手にビジネスで切った張ったをしながら貴重なノウハウを体得している人材はいるはずなんだ。そういう前衛的人間の知恵を束ねて、それを活かすシステムを日本は築いていかなければ。それが君らの世代の課題だと思うね。

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