メディアに掲載された石原伸晃関連記事を以下よりご覧頂けます。

「サミット退陣」か……
自民・民主キーマン連続直撃
- 現代6月号 2008年6月1日発行
- (株)講談社 定価750円(本体714円)
- 末延吉正(政治ジャーナリスト・立命館大学客員教授)
「福田首相の花道は『消費税10%』」

◇福田政権の足元はぐらついていますね。支持率は下降の一途。今度はバターやチーズまで値上がりです。これでもかと政権批判に拍車がかかりますね。
石原 小麦粉の価格が上がってパンが高くなり、一方でコメの価格が少し下がったでしょう。その昔、池田勇人蔵相が「貧乏人は麦を食え」と言って叩かれましたが、冗談抜きで「困ったらパンを食べずにコメを食え」という時代が来るかもしれません。
国内だけでなく、外交も問題山積です。福田さんはGW中の訪欧を取り止めましたが、ありえない話です。今夏開かれるサミットの議長国の総理が、国内問題に手一杯で外遊を中止するなんて、異常事態としか言いようがない。これが続けば、早晩、世界から相手にされなくなり、外交は完全にストップします。6ヵ国協議を再開しようにも、北朝鮮だってこんな内向きの国を相手にしようとは思わないでしょう。
◇外遊中止で明らかなとおり、当面の問題は、政治空白が生まれる可能性が、かなり高い確率で出てきたことです。ガソリン税暫定税率の再可決に続き、5月12日に道路整備財源特例法改正案が衆議院で再可決されたら、野党からの問責決議案提出は避けられません。
石原 そうなれば参議院はストップし、それが事実上の国会閉会で1ヵ月間の政治空自が現実のものとなる。しかし、ガソリン税の暫定税率の部分は、歯を食いしばってでも上げざるを得ない。でないと、こちらが出した予算が間違いであって、民主党の主張を政府が実行することになる。それは大政奉還を意味する。
◇福田首相は89年度から道路特定財源の一般財源化を掲げながら、その一方で、特例法改正案は今後の10年間で59兆円を投入する「道路整備の中期計画」に沿って、ガソリン税などを道路整備に充てると定めている。これは矛盾しますよね。
石原 そう。だから強行採決したら問責決議案を出されますよ。しかしね、最初に出たお話のとおり、価格の高騰が食べ物にまで及んでいるわけです。この事態にあって、国会が寝て″しまったら、国民はどう思うでしょうかね。シニアの皆さん、ウチの山崎拓(元自民党副総裁)会長なども「空自になったら、1カ月間ジッとしていればいいんだ」と言っていますが、党内でもベテランと中堅・若手で受け止め方はかなり違う。
◇古い政治家は、夏が来て北京五輪をテレビで観て、お盆に墓参りすれば、国民はみんな忘れてしまうと思っているフシがありますから。
石原 そうかもしれません。しかし、今回ばかりは危機感を持たずにはいられないでしょう。日銀総裁の席を3週間も空自にしたんですよ。さらに国会までお休み≠オて、政治家が街に出たら何と言われるか。政治家は仕事をせず、国民の生活はますます苦しい。国民にしてみれば、当然、「ふざけるな」となりますよ。その怒りに、自民党のみならず永田町が持ちこたえられない。
「ポスト福田は……」
◇そんな状況下だからか、やはり小泉(純一郎)元首相の動きが活発になりました。民主党の若手と会合を持ち、その一挙手一投足にみんな浮き足立った。率直に言って、小泉さんは福田さんの応援団なんですか?
石原 小泉さんは2年ぶりに政権を奪回したイタリアのベルルスコーニ首相の友達だから、「また働くこともあるかな」くらいには思っているんじゃないですか(笑)。会合に同席していた前原(誠司・民主党副代表)さんが小泉さんのことを好きなのは確かでしょうけれど、他に女性や若手の経営者の方も入っていたようですし、単なる飲み会というほうがニュアンスは近いと思う。
◇無派閥だった石原さんが昨年は12月に山崎派入りしたときも注目を集めましたよね。「ポスト福田に向け、ついに動き出した」 って。
石原 安倍政権の改造人事で政調会長に就任したと思ったら、安倍首相が、まさかの辞任。突然の空自ができて2カ月間、それまで多忙でできなかった地元での国政報告会を始めたんです。このおかげで、永田町では分からない空気を肌で感じましてね。山崎派入りは、地元回りをしながら気持ちを整理したときに、「一人ではやはり限界がある。政策集団に入らなくては」と考えた結果ですよ。それに、ポスト福田はですね……ズバリ福田さんです。
◇福田政権がこれからも続くんですか? これだけ叩かれても?
石原 ご自身から辞めるということはないと思いますね。福田さんは今年の暮れには税制抜本改革をやると表明しているんです。これが意味するところは、自身の花道をちゃんと考えているということです。かつて竹下(登)首相が消費税を導入し、橋本(龍太郎)首相がそれを5%に引き上げました。それを今度、福田さんが社会保障に充てるために10%程度にまで上げる。実現すればヒストリーネームができあがりますよ。いえ、福田さんの花道は、誰もがやるべきと思いながら手をつけない税制に事をつけるしかないわけです。
◇つまり、増税という政治家にとって最も困難な仕事を取りまとめて名を残したい。その志半ばで辞めるわけがないと。
石原 みなさん、政局がお好きだから、「次は麻生(太郎・前幹事長)さん」とか、名前ばかり先行しますが、そんな局面はしばらく来ないというのが私の見立てです。総理ご自身が「辞める」と言わないかぎり、総裁選はできないんですから。
潮目が変わった瞬間
◇民主党の小沢一郎)代表にしてみれば、国会の空自が生まれることが倒閣のチャンスだと、単純に考えるかもしれませんが。
石原 どうでしょうか。民主党も今年9月に代表選を控え、内部は四分五裂です。反小沢グループが候補を立てるでしょうから、小沢さんも苦しい。小沢さんとしては、代表選をなんとか無投票で乗り切りたいわけで、そのためには代表選の前に解散・総選挙という状況にしたい気持ちは分かりますが。しかし潮目は変わったと思いますね。
◇国民の民主党に対する見方のことですか?
石原 決定的だったのは、日銀の副総裁大事ですね。総裁人事で元財務次官の武藤敏郎さんが拒否された後、福田さんがやはり次官OBの田波耕治さんを出したときには、どんなセンスをしているのかと驚きましたが、その後、民主党が副総裁人事で前財務省財務官の渡辺博史さんまで拒否したでしょう。あそこが潮目でした。以前なら講演会で「一度くらい民主党に政権を任せてやれ」という声が上がりましたが、ピタッとなくなりましたから。
◇そんなときに道路財源特例法案で政治空自が生まれたら、これはもう国民は本気で怒り出す、と。
石原 今回の政局の特徴は、自民党はポスト福田、民主党はポスト小沢、この二つがパラレルな関係を保ちながら動いていることです。その真っ只中にあって、来るべき政治空白をいかに乗り越えていくかが問われる難しい局面なんですよ。
◇だとしたらですよ、何をしても政治不信に繋がりかねない状況下で、消費税10%というテーマは、福田さんにとって不利なテーマでしょう。ただでさえガソリンの値段が上がるか下がるかという分かりやすさが支持率と連動している。宮崎県の東国原(英夫)知事しかり、大阪の橋下(徹)知事しかり、テレビの人気者でないと政治ができないような空気まで生まれています。
石原 まさか、吉本興業が政界まで乗っ取ることはないと思いますけどね(笑)。政界でもポピュリストばかり注目されますが、サステイナブル(持続可能)なポピュリズムというのは存在しないんです。正直、国民にとって耳に心地良いことばかり言うのは、もう限界に来ている。断言してもいいですが、しっぺ返しは国民に返ってきます。この時期、税制抜本改革をぶち上げるなんて、マイナスでしかない。支持率を考えたら、言わないほうがいいに決まっている。だからこそ、福田さんの決意のほどが見えるわけです。
弛緩しきった永田町
◇しかし、その自民党内に、福田首相の改革への意志が伝わっていないのは、どうしてなんでしょう。
石原 小泉さんは明確に方針を打ち出す人でした。「民に任せられるものは民に」といった具合に。いま自民党の改革派と呼ばれる人の多くは、小泉改革の余韻でものを言っているだけで、新しいものを打ち出しているわけではない。それに比べれば、福田さんの決意はレベルが高いんですよ。小泉さんが封印して、安倍さんも触れなかった消費税に、福田さんは触ろうとしているんですから。もっとも、税制抜本改革を言い出したのは、実は与謝野(馨・前官房長官)さんあたりのアイデアによるところが大きいかもしれませんけどね。そうだとすると、財務官僚の影がちらつきますが。
◇石原さんの危機感はよく分かりました。しかし永田町を取材していても、緊張感は薄く、何だかホワンとしていますね(笑)。
石原 弛緩しきっています。だって、4月も半ば過ぎ(インタビューは15日)ですよ。会期を考えたらいまごろまでに衆院の本会議で可決されない法案は、間に合わない。それなのに、「この法案は、どの委員会で審議しようか」という議論が、参院の委員会ではいま行われているんですから。
◇キャリア制度の廃止などを盛り込んだ公務員制度改革基本法案も店晒しですか。
石原 民主党の側に参議院で議論する気がないんですから。間違いなく店晒しでしょうね。
◇日銀総裁の人事問題が大騒動になったおかげで、政治家は助かったんじゃないですか(笑)。
石原 本当ですよ。あれで国民の目が日銀緻裁人事に釘付けになった。それがなかったら、民主党が参院で何もしていないことが明らかになっていたところです。
ピンポン外交≠ヘNG
◇この閉塞状況を打破しなければならないのは、自民・民主とも同じです。しかしねじれ国会である以上、再び連立や政界再編の動きが出てくるのではないですか。
石原 政界再編というより、大切なのは与野党で政策を決める枠組みを確立することだと思います。ねじれの中で法案をどう協議していくかの方法論です。法案は与野党で現場修正して、政策の合意点を見出していくしかない。こんな話すると、党内でウケが悪いんですよ。書生っぽいと言われて(笑)。でも、いまどこの委員会のメンバーも、実情は政党本部の指示どおりに動いているだけです。中身は関係なく、「こっちの法案を通すから、そっちは廃案だ」という取り引きが横行している。
◇それじゃ、55年体制と同じだ。
石原 そう。だから委員会主導に戻さないといけない。委員会で法案の修正ができるからです。それで、私は「党の事前審査を止めろ」と常々、言っているんです。ねじれているのだから、与野党が合意しないことにはどんな法案も通らない。それなのに法案の中身を与党がオーソライズする意味なんてないじゃないですか。
◇しかし、その方法で政策決定ができるようになったら、いちばん困るのは政治家をコントロールできなくなる官僚でしょうね。
石原 おっしゃるとおり。官僚は困るけれども、国民にはハッピーです。ただ、政治家の責任は重くなりますよ。政策の分からない議員は、もう要らないということですから。
◇くどいですが、福田さんで持ちこたえられますかね?
石原 とにかく、暫定税率を元に戻し、5月を乗り切らなくては。国会が空転したままで首相がサミットを迎えるなんて、世界の笑いものですよ。福田さんにあえて一つ申し上げるとすれば、5月初旬、来日する中国の胡錦涛国家主席と早稲田大学で卓球をするピンポン外交″を展開するようですが、お止しになったほうがいい。チベットで起きていること、そして農薬が入った餃子のこと。この二つは、国民の脳裏から、そう簡単に消える問題ではありません。
