マスコミ語録

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日本経済新聞
平成18年5月29日(月)

交遊抄 開祖の遺訓

「燃えよドラゴン」でブルース・リーが絶頂期を迎えた1972年。16歳の私は武道にあこがれて少林寺拳法の門をたたいた。開祖の故・宗道臣に初めて会ったのはその四年後だった。

開祖は各大学の少林寺拳法部の合同合宿に現れた。はげ頭にあごひげをたくわえ、袈裟(けさ)をまとう姿はまるで達磨大師だった。「君ら、いきがっちゃ駄目だ」。腕っぷしに自信を持ち始めていた我々に語った。

開祖は高弟の中で一番小柄な故・坂東邦伯先生を呼び、屈強な学生と手合わせさせた。一刹那(せつな)。みな声を失った。先生は学生の拳を軽くかわし、首の後ろをポンとはたいた。学生は簡単に崩れ落ちた。「上には上がいる」。慢心は戒められた。

開祖の技も次元が違った。すれ違いざまに相手が倒れる。何があったか、速すぎて見えない。驚く私に開祖は「腕や肩の関節を外すのは簡単だが、少林寺拳法はそういうものではない」と諭した。

本質は技ではなく心。開祖は「半ば自己の幸せ、半ば他人の幸せ」と常に教えていた。昔は分からなかったが、人と人がつながる社会を見続け、今は心に響く。師の遺訓は一生、私の胸中で繰り返されるだろう。

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