メディアに掲載された石原伸晃関連記事を以下よりご覧頂けます。
月刊 財界人6月号
21世紀日本の進路
観光立国への道
<聞き手 財界人主幹 田崎喜朗>

グローバル、ボーダーレス社会の進展に伴い世界は大交流時代を迎えた。2002年で7億人強だった国際ツーリズムは、2020年には年間16億人に違する見込みだ(WTO予測)。そんな大交流時代にあって「外国人旅行者受入数国際ランキング」第33位と、後塵を拝してきた日本が、やっと観光立国への道を歩み始めた。2002年2月、第154回国会における小泉総理の施政方針演説を皮切りに、2003年を訪日ツーリズム元年として「観光立国行動計画」を策定、様々な取り組みが始まっている。初代“観光立国担当大臣”として陣頭指揮を執る石原国交相に、その抱負と課題を聞いた。
スピーディかつ実効性重視の取り組みで
訪日ツーリズム元年から手応え十分
田崎:国土交通大臣というポストは抱えるお仕事が多く、多分閣僚一お忙しいのでしょう、やっと当誌にご登場いただくことが叶いました。道路公団問題を含め、お聞きしたいことが山ほどですが、今回は“観光立国”担当大臣として、その関連内容に限らせていただきます。
石原:先輩(大臣と田崎は慶應義塾の同窓生)の雑誌からお声をかけていただきながら、なかなか時間がとれずに申し訳ありません。何しろ過去最高という18本の法案を抱えながら陳情にも対応しているものですから、忙しいのは事実です。
田崎:国交相としてのお仕事だけでも大変なところに、21世紀の基幹産業として期待の高い観光担当大臣のお仕事まで増え、さらにお忙しくなられますね。
石原:大変なのですが、観光関連の仕事が一番楽しいんです(笑)。
田崎:ビジット・ジャパン・キャンペーン(以下VJC)ではトップセールスとしてのお役目もあるようですが、すでに各地へは行かれているのですか。
石原:本当は行かなければならないし、私としてもぜひ行きたいのですが、それこそなかなか時間がありません。昨年9月に就任以来、観光立国担当大臣として出張したのは、11月に羽田空港と金浦空港のシャトル乗り入れ初便で韓国へ行ったのと、3月に開業した九州新幹線のイベントだけです。もっともっと各国へ赴いて、日本をアピールしたいのですけれどね。担当大臣としてできることは、最終的にはトップセールスに徹することだと考えています。
VJCには予算もかなりつけていただきましたので、もっと本腰を入れて、日本が本気で外国人を呼ぼうとしている姿勢も含め、アピールしていきたいと思っています。
田崎:観光立国担当大臣にご就任後、まだ6ヶ月余りですが、訪日ツーリズム元年の手応えはいかがでしたか。

石原:昨年はイラク戦争があったり東アジアではSARS渦もありまして、前半、ツーリズム界は受難の時だったのですが、夏以降、かなり盛り返しました。
田崎:キャンペーン効果がさっそく出たわけですね。
石原:そうです。初年度ということで、キャンペーン対象を韓国、台湾、アメリカ、中国、香港の5ケ国・地域に絞りましたが、W杯でたくさんの人がいらした2002年度比でわずか0.5%減でしたから、かなりの効果だったと思います。
田崎:具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか。
石原:早急にできることとして、まずは情報発信量を増やしました。小泉総理にも訪日促進のプロモーションビデオに登場いただき、今年の1月から放映されています。
田崎:内閣総理大臣が映像に登場し、諸外国に向けて日本をアピールするという取り組みは今回が初めてのようですね。
石原:それだけ本気だということです。私も英語、中国語、韓国語の3ケ国語でビデオを制作しました。
これらのプロモーションビデオは、海外TVでCMとして放映する他、首脳会談のレセプション時や、海外旅行業者向けセミナーで使ったり、成田や羽田、関空内、そして国際線の中でも放映されます。
田崎:内容も豊富ですね。
石原:日本の姿を正しく理解いただくためです。いつまでも富士山と新幹線だけではダメですからね。
田崎:昔はそれに芸者が加わっていた(笑)。
石原:日本は魅力溢れる国なんだ、皆さんもっと来てください、そして日本を知ってほしいというアピールがこれまでは足りませんでしたからね。昨年から今年にかけては、国内外を問わず、旅行博への出展や観光交流会などにも積極的に参加し、日本をアピールしてきました。
11月に札幌で開催された「北海道観光ビジネス・フォーラム」には台湾と韓国の旅行会社65社105名を招請しましたし、今年1月には地方自治体など68団体と「日中文化観光交流展」を上海で開催し、いずれも新しい訪日ツアーを検討いただけることになっています。
田崎:この4月からは地下鉄の駅がナンバリングされましたが、外国人観光客の受け入れ体制の整備にも、初年度から積極的に取り組まれています。国交省のホームページもかなり充実しましたね。情報発信と共に、宿泊先の紹介など日本に来てからも役立つ情報が入っています。
石原:ホームページは、英語、中国語、韓国語の3ヶ国語で対応していますが、2年目からはキャンペーン対象国にイギリス、フランス、ドイツが加わりますので、さらに充実していく予定です。3月には韓国の修学旅行生のビザが、4月には香港からの観光客に対してビザが免除され、来やすさという点も改善しました。また中国に対しては、これまで北京と上海の両市と広東省に限定されていたビザ発給を、小泉総理の指示の下、拡大の方向で中国政府と調整が行われています。
田崎:キャンペーン対象はアジア中心ということですが、一方でアジア系外国人の不法入国者が増え、それに伴い犯罪も増えていますから、手放しでウェルカムといかないところが難しい。
石原:中国はさらなるビザ発給エリアの拡大を要請してきていますが、出国時の審査を厳しくしていただくとか、ペナルティを徹底いただくなど、外務省や法務省とも協議しながら、多くの方に来ていただけるよう進めているところです。
田崎:入国審査手続も改善されたそうですが。
石原:これまではとにかく時間がかかるという不満の声が高かったのです。日本人向けブースが空いていてもそちらには並べないなど、典型的な縦割システム、お役人仕事でした。法務大臣にもお願いしまして、例えば、日本人向けブースが空いているならそこを外国人向けに転用できるようにしたり、高齢者や妊婦さん、障害者の方には優先ブースを設定するなど、改善がなされました。
まだまだ不十分な点もありますが、初年度でもありましたので、できることから改善していくということです。観光立国は一朝一夕に達成できるものではありません。効果的かつ息の長い施策の積み重ねが大切です。とりあえずの目標である2010年、インバウンド倍増の1000万人達成に向けて、スピーディかつ実効性のある施策に取り組んでいるところです。
観光振興の多面的メリット
経済活性化と安全保障問題も一気に解決
田崎:小泉総理が国会の施政方針演説で初めて観光振興の必要性を掲げたのが2002年2月でした。産業としての観光が経済全体に与える影響への期待は以前からありましたが、国を挙げて、内閣の主要政策として観光振興を推進するのは日本では初めてのことです。貿易立国、技術立国で進んできた日本ですが、行動計画にもあるように、「21世妃の日本の進路」としてまさに新しい方向性が打ち出されたわけです。この辺りの経緯についてお話ください。
石原:一番わかりやすいのは、アウトバウンド(日本人海外旅行者数)とインバウンド(訪日外国人旅行者数)の絶対的なアンバランスを是正しようということでしょう。
田崎:2002年の数字で、アウトバウンド1652万人に対して、インバウンドは524万人。この年はサッカーのW杯があってインバウンドが非常に伸びた年ですが、それでも3分の1以下でした。
石原:経済収支で見ると、アウトバウンドによる支出が264億ドル、インバウンドによる収入が35億ドルと、その差はさらに大きいのです。
その数字的なバランスを是正することも急務なのですが、その根っこには観光による国際相互理解の促進という問題があります。海外の方の日本のイメージというのは、工業立国、経済大国というのが圧倒的で、それに伴って日本人の国民性も誤解されたまま伝わっていることが多い。
田崎:エコノミックアニマルなど、マンハッタンを買い占めたバブル期のイメージがいまだに強烈のようですね。

石原:もちろん経済大国であるということは誇れることですが、日本の魅力はそれだけではありません。四季折々の表情を織り成す豊かな自然や千年以上にわたって培われてきた素晴らしい文化がたくさんあるわけです。最近では、ジャパニーズアニメーションを筆頭にポップカルチャーも高い評価を得ています。また、我々日本人自身が気づいていない日本の艮さもある。オーストラリアの在日大使がおっしゃっていましたが、日本のスキー場は非常に質が高いらしいのですね。雪質はもちろん、リフトなどの設備やサービスはいいし、料金もオーストラリアに比ベ2割ほど安いそうです。
田崎:日本人は、本場のスキー場がいいなどと、わざわざオーストラリアに行っていますが、日本の方が優れている点もあるのですね。
石原:そういう面もあることをちゃんと発信していかなければなりません。世界がグローバルになればなるほど、お互いのことを正しく理解するということは重要で、それが安全保障にもなり、世界平和にもつながっていくわけですからね。
田崎:民族紛争やテロ行為など、昨今の世界情勢を見ますと、国際社会の中でお互いを正しく理解し、その国の文化や習慣を尊重することがいかに重要か、身につまされます。
石原:もちろん観光振興による経済効果への期待も大きい。かつて観光地として名を馳せたところでも、バブル崩壊で疲弊しているところが多いですし、地場産業としての観光業に元気がありませんからね。観光立国を掲げることで、地域ごとに自分の住んでいるところの魅力を再発見、再認識いただき、それを観光に結び付けていただければ、地域経済が活性化され、日本経済そのものの復活にもつながるわけです。
田崎:観光の語源は 「観国之光」です。地域が光り輝くことで繁栄し、それによって外から人が集まるという意味ですが、その原点に還るわけですね。
石原:観光というのは関連産業が幅広く、大きな波及効果も期待できます。2002年の数字を見ると、わが国のツーリズム消費額は21.3兆円ですが、それによる生産波及効果は49.4兆円、付加価値効果は26.1兆円にもなるのです。この21.3兆円の内、訪日外客市場はまだ1.6兆円。インバウンドを伸ばすことで得られる経済効果がいかに高いかおわかりいただけるでしょう。しかも、観光産業は民間主体の事業ですから、国のお金をさほど投入することなく経済効果を得られます。行政が枠組みを作り、応援する体制を作れば、民間の活力でできるわけです。
田崎:観光が、21世紀のリーディング産業として注目されるゆえんですね。
石原:地域経済が活性化し、外国からたくさんの観光客が来るようになれば、そこに住んでいる人の誇りにもなり、自信にもなります。
田崎:地域を魅力的にということで「まちづくり交付金」を創設されましたね。
石原:日本が観光立国を標榜するに当たって一番大切なことは、地域の皆さんが、その地域に相応しい、そして個性溢れる美しい街づくりを推進していくことです。行政はそれをバックアップしなければならないのですが、財政面が厳しい時ですから、潤沢な予算はとれません。国交省関連で見ても、公共事業に関する補助金を3250億円カットしたばかりです。そんな状況の中、1330億円を創設して、「まちづくり交付金」に充てたのです。これまでの、国の基準を満たした事業のみ、しかもハード偏重だった補助金制度ではなく、その地域の実情を一番よく知っている地元の皆さんの自主性を尊重し、オーダーメードの街づくりを応援する、日本初の支援制度になるはずです。
田崎:魅力的な地域がどんどん増えていくことは、我々日本人にとっても楽しみなことです。
石原:2003年1月に総理主催の「観光立国懇談会」が発足しましたが、その懇談会の報告書には「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という副題がつけられています。そこに住んでいる人はもちろん、外国から来てくれた人も住んでみたいと思える地域づくり、国づくりになればと思っています。観光振興には、まず自分たち自身が地元や自国の歴史、文化を理解する必要がありますし、やってくる外国人からその国の歴史や文化も学べますから、教育的な効果も期待され、当然国際性も磨かれます。まさに一石何鳥にもなるのが観光振興なのです。
田崎:観光先進国では「観光」を、国力を高め、文化を発信する有力な手段として、はやくから振興に取り組んでいますが、日本もやっとそのレベルに達したわけですね。
石原:先日も、アメリカやフランス、中国など12ケ国の大使を官邸にお招きした「観光政策に関する観光大国・地域の大使等との懇談会」が行われましたが、観光先進国はどこも、観光をメインの産業として捉え、はっきりとしたビジョンの下、明確なマーケティングポリシーを掲げて、国を挙げての振興政策をとっています。観光後進国である日本としては、先進国から学べるところはどんどん学んで、観光立国を目指さなければなりません。
ウェルカム精神と環境整備で
国民が誇れて外国人にやさしい国づくりを
田崎:観光立国には経済的側面だけでなく、実に多面的なメリットがあるわけですが、しかし、なぜ日本では、21世紀になる今日まで観光振興が遅れたのでしょうか。
石原:国民性として、「いいものを作っていれば黙っていても売れる」的な考え方が強かったのでしょう。逆に言えば自信もあったのでしょうね。しかしメーカーと一緒で、ものを作る技術力と販売力は車の両輪です。これからは技術力、ここでは地域の魅力にいっそう磨きをかけることとか外国人が安心して歩ける環境整備の充実ですね、そして販売力、これは情報発信力になりますが、この両輪を合わせて充実させていく必要があるのです。
田崎:従来日本人は勤勉とされ、観光は娯楽、遊興であって、産業として国が育てなければならないという意識は低かったというのもあるでしょう。国民にしても、海外からの観光客に対して、遊びで来ているといったちょっと冷たい視線などもあったかもしれません。
石原:日本人は個々としては親切だけれど、集団として見た時、外国人に対して一歩引いてしまうところもあったでしょうね。言葉の問題もあるのでしょうが、前方から外国人が歩いてきた時、コースを避けてしまうとか、顔を背けてしまうとか。旅行者から見た時、残念ながらそれは歓迎されているとは感じられない。VJCのキャッチフレーズは「ようこそ、ジャパン」なんですが、来てくれてありがとう、日本を挙げて皆さんを歓迎します、といった「ようこそ」の精神と、もっともっと日本のことを知ってほしいという前向きな姿勢をもっていただけるよう啓蒙も必要だと思います。
田崎:2年目以降は、そういう活動も入ってくるわけですね。

石原:国民の皆さんに価値観の転換を求めながら、国としても、外国人に優しい環境を整備していく必要があります。先日もある在日大使から、「日本人は外国人に対して優しいが、日本という国は外国人に非常に不親切だ」という厳しい指摘をいただきました。交通機関などその最たるもののようです。日本の鉄道は、時間は正確だし、本数も多い、料金も安くてサービスもいいなど、非常に質の高いインフラですが、外国人には実に使い勝手が悪い。新幹線の切符にしても外国語表記がありませんし、切符の購入や乗り継ぎなど、普段我々が気づかないところで不備な点が多いのです。東京の地下鉄の全路線、全駅がナンバリングされましたが、それでもパリのメトロに比べるとまだまだです。鉄道に限らず、空港や美術館、観光地の案内板や標識にも、改善の余地はかなりあります。国として民間にお願いしながら、初めて日本を訪れる外国人の方でも安心して一人歩きできるような環境を作っていかなければなりません。
田崎:民間事業者と、あとは地域自治体がどこまで頑張れるか。
石原:おっしゃる通りです。「観光立国」への道は国と自治体と民間が一体となって歩んでいかなければなりません。VJCでも、自治体や民間の代表者が集まる実施本部を設置しました。また、観光カリスマとしてホームページでも紹介していますが、国がこうして取り組む前から、地元観光を再生させ、見事に成功された観光の達人が全国各地にたくさんいます。その先人の智恵を他の地域に広めることも我々の役目です。
田崎:ところで、今年度からはイギリスやフランス、ドイツもキャンペーンの対象国になるようですが、アジアヘのアピールとはやはり違う手法が必要なのでしょうね。
石原:例えば、欧米の方にとっては“EAST IS EAST”で、日本と中国と韓国の違いってあまりわからないんですね。その違いをアピールするようなパックツアーを、日中韓3国共同で事業化しようという計画が進行中です。スローガンは、“ONE TRIP、THREE TASTES”。3国を周遊できるツアーです。
田崎:アジア通の欧米人にはたまらない企画になりそうですね。
石原:そうした企画をはじめ観光全体をプロデュースできるプロを育成していくことも今後の課題です。まだまだ動き出したばかりですが、21世紀の日本が世界に開かれた観光大国となれるよう、最初の一歩を踏み出すものとして、地盤囲めをしっかりさせていければと思っています。
田崎:具体的な行動計画が策定されたのは昨年の7月ですから本当にわずかの期間で、これまでに見られないスピーディな対応ぶりに、正直驚いています。総理の思いも強いのでしょうが、現場の指揮官である石原大臣の指導力によるところも大きかったのではないでしょうか。
石原:ほとんどの役所がそうでしたが、特に国交省は発注者という立場から、生産者、産業界の視点でものを見てきたと思います。しかし、これからは消費者、国民に視点を当てた行政でなければなりません。次代の日本人が誇れる国づくりを観光という側面からも取り組んでいかなければと考えていきす。
田崎:期待しています。本日は本当にお忙しい中、ありがとうございました。

